1千億円を上回る損失先送り額との報道が出ていますが、さすがにこんなに巨額では記者会見で口にするのは憚られますね。
オリンパスが隠していた損失額1千億円という数字が、どのような数字なのかは分かりませんが、現時点で簿外債務が1千億円あるとすると、債務超過の可能性が高くなると思います。
(注記)
と書きましたが、その後の報道で1千億円というのは損失額が最大に膨らんだ時の数字で、今は問題となったスキームで補填したのでかなり減っているようです
最初の損失額は数百億円程度だったと思いますが、処理を先延ばしにしているうちにどんどんと株価が下がり、さらに損失額が膨らんでいくという悪循環に陥ったようです。簿外に飛ばして損失を隠したわけですが、そんなリスクの高い不透明な工作を手伝ってくれるのは儲かるからであり、協力者である佐川肇氏への報酬も高額だったと思われます。
ウォール・ストリート・ジャーナルに オリンパス疑惑の中心人物、所在不明に という記事が出ていますが、オリンパス騒動が巻き起こる前までは優雅な引退生活を楽しんでいたそうです。オリンパスからの助言手数料として、2006年320万ドル、2007年779万ドル、2008年2,420万ドルに達していたそうなので、そのうちどの程度がオリンパスに戻されたのかは分かりませんが、佐川肇氏が優雅な引退生活を送れるくらいの額は手元に残ったのでしょうね。
これらの今までの粉飾工作に使ってきた金額を含めれば、雪だるま式に膨らんだ損失額は1千億円程度では収まらないと思います。損失額が膨らむほどますます公表できなくなり、佐川肇氏などに飛ばしスキームを考えてもらわなければならなくなり、ますます損失額が膨らみます。完全な悪循環ですね。
ダイヤモンドZAIオンラインに
→ 粉飾決算のオリンパスが辿る、今後のシナリオ3つを考えてみた
という記事が出ていますが、オリンパスが上場廃止になっても株価はゼロにはならないという趣旨の記事は、私から見ると甘いんじゃないかな〜と感じてしまいます。
詳しいゼロとはならない理由は上記の記事をご覧ください。
以下私なりにオリンパスの財務状況を簡単に分析し、今後のオリンパスについて考えてみます。
2011年6月30日時点のオリンパスの株主資本は1,511億円ありますが、
自己資本比率も公表されている13.5%(この数値も製造業としてはかなり低い)ですが、
オリンパスの資産を見ると無形固定資産としてのれん1,682億円、投資有価証券572億円が計上されています。
のれんは、買収額とその会社が持っていた純資産(現預金や在庫など金額に換算できるもの)を引いた残りであり、高い価格で買えば買うほどのれんが大きくなります。ブランドなど形のない価値を資産計上しているものなので、本当にそれだけの資産価値があるのかは誰にも分かりません。
買収した会社が期待したような利益を上げられなかった場合、資産計上しているのれんは見合った価値まで減損する必要があります。
今回の問題の発端は、ジャイラス社の買収価格のうちファイナンシャルアドバイザーへの報酬が異様に高額だったことですが、ファイナンシャルアドバイザーへの報酬額は優先株なども合わせると673億円程度になります。これも上記ののれんの中に計上されているわけです。この報酬自体には本来のれんとしての価値はありません。ジャイラス社への支払額+ファイナンシャルアドバイザーへの報酬額が買収にかかった費用ですが、ジャイラス社への支払額の中には確かにのれんに相当する部分もありますが、アドバイザーへの報酬は費用であり、それ自体には価値がありません。
またジャイラス社自体が大きなのれんを抱えており、この部分について減損する必要があるのではないかと、当時のジャイラス社の監査法人から指摘されていました。この部分についても今後特損計上する可能性があります。
そして次に問題になった国内の赤字ベンチャー企業3社を法外な価格で買収した件ですが、こちらは734億円で買収し、すでに557億円の減損損失を計上しています。その後減損していないとすると、現時点で177億円がのれんとして計上されていることになりますが、今でも赤字が続いているようなので果たして177億円ののれんが適正なのか?という問題が生じてきます。こちらもゼロまで減損すると177億円の特損ということになります。
他にもITX買収についても不透明さを指摘する報道もあり、まさに底なし沼という感じです。
上記の分析はあくまで現状の貸借対照表を元に分析しているので、簿外の債務以外に貸借対照表自体も粉飾されていると、状況は変わってきます。
債務超過となれば基本的に株式の価値はゼロということになるので、上場廃止になっても株価はゼロにはならないというのは、ちょっと楽観的すぎるのではないかなと感じます。
新たなスポンサー企業が現れたとして、財務内容を精査したところ債務超過になれば、支援の前提として100%減資を求められる可能性もあります。その場合、既存の株主の価値はゼロになります。
一方で、1千億円という損失額はほとんどが今回問題になったスキームで処理済みだとすると、新たに1千億円の特損が出るわけではないので債務超過は回避できるかもしれません。ただ、のれんの額(1,682億円)が株主資本(1,511億円)以上という状況なので、のれんの減損が大きければ債務超過の可能性もあると思います。
もちろん債務超過になってもすぐに上場廃止になったり、倒産するわけではありません。利益をあげて債務超過を解消するか、増資を行って株主資本を積み増して債務超過を解消する方法もあります。
しかし現状のオリンパスが増資をして資金調達することはほぼ不可能だと思います。
粉飾企業に進んで資金を提供する投資家はいないと思います。
可能性があるとすれば転換価格下方修正条項付のMSCBを大量発行するという手(笑)がありますが、そんな手を使えば即上場廃止だと思います。というかこんな手を使うような会社は上場廃止にしないと、ほとんどのオリンパス株主がさらに損失を被ることになります。
ではオリンパスは内視鏡など素晴らしい商品を持っているんだから、毎年利益を積み上げることで債務超過を解消できるか?というとこちらも難しそうです。
円高が進んでいることで欧米への輸出が中心のオリンパスの業績は低迷しています。そのうえ粉飾決算の全貌を調査したり、東証や金融庁などへの報告書の作成など余計なコストも発生してきます。粉飾決算の全貌が明らかになれば、課徴金の納付命令が出るのも確実だと思います。
マスコミ対応などにも力を割かなければならず、本業に集中できるような状況ではないと思います。社員の士気も下がるでしょうし、優秀な社員ほどオリンパスに見切りをつけて転職してしまう可能性もあります。
海外での商談では、コンプライアンスに問題のある会社との取引を敬遠するケースも出てくると思います。
現状でも業績は厳しい状況が続いているのに、世界的に話題になるような粉飾決算が発覚したことで、さらに業績の低迷に拍車がかかるのではないかと感じます。
それ以上に問題なのは、長短の借入金が7,036億円もあることです。財務諸表では現預金が2,669億円あるそうなので、この分を差し引いても4,366億円と巨額です。この借り換えが出来なかったり、粉飾決算を理由に前倒し返済を求められれば、その時点でオリンパスはジエンドということになります。
金融機関からすると、粉飾した決算書を元に融資審査をしていたことになるので、粉飾決算が明らかになれば前倒し返済を求める十分な理由になると思います。
なので上場廃止になっても倒産にはならないというのはかなり甘い考えだと思います。
今のオリンパスの命運を握っているのは借入先の金融機関であり、これら金融機関の動き次第でオリンパスの行く末は決まります。主な金融機関は下記の通り上場しているので、これら金融機関の株主からもオリンパスのような会社に貸していて大丈夫なのか?回収できなかったらどうするんだ!というような声が上がれば、金融機関としても座視することはできないと思います。倒産の引き金を引くのも嫌だけど、債権が焦げ付くのも困るので、金融機関の間でどう対応するのか他行の出方を伺っているのかもしれません。どちらにしろ1社が回収に動けば、他社も追随するのは必至であり、そうなれば倒産になってしまうので、資金の流出を止めるために民事再生法の適用を申請する可能性も高くなります。
オリンパスの今後は、これらの金融機関の姿勢次第であり、いろいろな可能性が考えられます。
オリンパスの主要な借入先(2011年3月31日時点)
三井住友銀行 909億円(株主総会招集通知より 内訳は不明)
三菱東京UFJ銀行 782億円(株主総会招集通知より 内訳は不明)
みずほ銀行 620億円(有価証券報告書より 長期借入金のみ、短期は不明)
三菱東京UFJ信託銀行 300億円(有価証券報告書より 長期借入金のみ、短期は不明)
日本生命 245億円(有価証券報告書より 長期借入金のみ、短期は不明)
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